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2026年5月12日

高LDLコレステロール血症と認知症リスク 〜中年期からの脂質管理が、将来の認知症予防につながる可能性〜

LDLコレステロールはいわゆる「悪玉コレステロール」と呼ばれ、これまでは主に心筋梗塞や脳梗塞など、動脈硬化性疾患との関連で語られてきました。しかし近年、LDLコレステロールは「将来の認知症リスク」との関係でも注目されるようになっています。

特に衝撃的だったのは、2024年に発表されたThe Lancet Commissionの認知症予防に関する報告です。この報告では、認知症の修正可能な危険因子として、新たに中年期の高LDLコレステロール血症と未治療の視力障害が追加されました。14の修正可能な危険因子に対応することで、認知症の約45%は予防または発症を遅らせられる可能性があるとされています。なかでも中年期の高LDLコレステロールは、認知症全体の約7%に関与すると推定されています。 

これは、私たちの日常診療にとって非常に重要なメッセージです。

つまり、LDLコレステロールの治療は、単に「心筋梗塞や脳梗塞を防ぐため」だけではありません。将来の認知症リスクを下げるためにも、中年期からしっかり取り組むべき課題になってきたのです。

なぜコレステロールが認知症と関係するのか

認知症というと、アルツハイマー病を思い浮かべる方が多いと思います。しかし実際には、脳の血管の障害、微小な脳梗塞、白質病変、慢性的な脳血流低下なども、認知機能の低下に深く関わります。

LDLコレステロールが高い状態が長く続くと、全身の血管で動脈硬化が進みます。これは心臓や頸動脈だけの問題ではありません。脳の細い血管にも影響し、長い年月をかけて「脳の予備力」を少しずつ削っていく可能性があります。

The Lancet Commissionは、高LDLコレステロールを40歳ごろから発見し、治療することを認知症リスク低減の推奨項目の一つとして明記しています。 

「中年期」が大切です

ここで大切なのは、高齢になってからではなく、中年期のLDLコレステロールが問題になるという点です。

2021年にLancet Healthy Longevityに発表された、180万人以上を対象とした大規模後ろ向きコホート研究では、65歳未満で測定されたLDLコレステロールが、10年以上後の認知症リスクと関連していました。特に65歳未満でLDLコレステロールが高い人では、長期的な認知症リスクとの関連がより明確でした。 

この結果は、私たちが普段診ている40代、50代、60代前半の患者さんにとって、とても重要です。

「まだ若いから大丈夫」
「症状がないから様子を見たい」
「薬はできるだけ飲みたくない」

そう考える方は少なくありません。もちろん、生活習慣の改善はとても大切ですし、すべての方にすぐ薬が必要というわけではありません。

しかし、LDLコレステロール高値を何年も放置することは、血管への負担を積み重ねることになります。そしてその影響は、心臓や脳卒中だけでなく、将来の認知機能にも及ぶ可能性があります。

LDLを下げることは認知症予防につながるのか

2025年には、韓国の大規模医療データを用いた研究も報告されました。この研究では、LDLコレステロールが70mg/dL未満の人は、130mg/dL超の人と比べて、全認知症リスクが26%低く、アルツハイマー病関連認知症リスクが28%低いと報告されています。また、LDL 70mg/dL未満の群では、スタチン使用がさらに認知症リスク低下と関連していました。 

ただし、ここで注意も必要です。これらの研究の多くは観察研究であり、「LDLを下げれば必ず認知症が予防できる」と断言できるものではありません。The Lancet Commissionも、リスク因子と認知症の関係には因果関係を仮定している部分があり、個人単位で認知症を完全に防げると保証するものではないと述べています。 

それでも、LDLコレステロールを適切に管理することは、すでに心筋梗塞や脳梗塞の予防において確立された重要な医療です。そこに「認知症予防」という観点が加わってきたことは、日常診療における大きな意味を持ちます。

神経内科医としての私の考え

これからは、LDLコレステロール高値を「検診でよくある数値異常」と軽く扱うべきではないと考えを軌道修正しました。

特に40代、50代、60代前半の方では、将来の血管病だけでなく、将来の認知機能を守るという視点からも、脂質管理をしっかり行う必要があります。

もちろん、治療は数値だけで決めるものではありません。年齢、血圧、糖尿病、喫煙、家族歴、脳梗塞や心疾患の既往、頸動脈エコーや動脈硬化の状態などを総合的に判断する必要があります。

しかし、少なくとも次のような方は、一度きちんと相談していただきたいと思います。

認知症予防は、特別な薬を飲むことだけではありません。血圧、糖尿病、脂質異常症、運動、睡眠、聴力、視力、社会的交流など、日々の積み重ねが大切です。

その中でも、中年期の高LDLコレステロール血症は、今後もっと積極的に対応していくべき重要なリスク因子だと考えています。

「今の血管を守ること」は、「将来の脳を守ること」でもあります。

健診でLDLコレステロール高値を指摘された方は、ぜひ一度ご相談ください。

引用文献

  1. Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. The Lancet. 2024.
    2024年Lancet Commission報告では、中年期の高LDLコレステロール血症と未治療の視力障害が新たな修正可能な認知症リスク因子として追加された。 
  2. University College London. Nearly half of dementia cases could be prevented or delayed by tackling 14 risk factors. 31 July 2024.
    Lancet Commissionの内容を紹介し、中年期の高LDLコレステロールが認知症症例の約7%に関与すると説明している。 
  3. Iwagami M, Qizilbash N, Gregson J, et al. Blood cholesterol and risk of dementia in more than 1.8 million people over two decades: a retrospective cohort study. The Lancet Healthy Longevity. 2021.
    65歳未満で測定されたLDLコレステロールが、10年以上後の認知症リスクと関連することを示した大規模研究。 
  4. Lee M, et al. Low-density lipoprotein cholesterol levels and risk of incident dementia. Journal of Neurology, Neurosurgery & Psychiatry. 2025.
    LDL-C 70mg/dL未満は、LDL-C 130mg/dL超と比較して全認知症リスクおよびアルツハイマー病関連認知症リスクの低下と関連した。 



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